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そう返事をした刹那、霧のように執事が消え去る。転移魔法のようなものだろうか。
これで、がらんとした教室には姫様と僕の二人のみ。教室があるこの予備門は、姫様の生家である天使の名門貴族・レッドブック家の所有物らしく、二階建てで部屋数も20以上あり、かなり広い。
「と、いうわけで……今日からこの特進クラスを受け持つ、サトルと申します。改めてよろしくお願いいたします」
僕は、がらんとした教室で、たった一人の生徒に向けて再度挨拶をした。
「はぁ………」
「今一度確認しますが、あなた……【人間】でいらっしゃいますよね?」
たった一人の生徒は、明らかに失望した態度で僕に話しかけてきた。
目の前に座っているのは、眩いばかりの金髪をなびかせる少女。毛先に至っては、床につかんばかりの長さだ。表情は分厚いマフラーと昭和風漂うガリ勉風眼鏡で覆われており、全くうかがい知ることができない。
しかし、綺麗な金髪、背中から垣間見える二本の羽……これらの特徴から、彼女が【天使】であることはなんとなく実感した。
「ええ、そうですが」
「ただの人間にすぎないあなたに【天使たる】私の教育ができるものなのでしょうか?」
少女は刺すような厳しい口調で問いかけてくる。
「……ちっ……はい。問題はありませんよ。人間であろうと【糞虫】であろうと、受験の本質は同じですので」
(舌打ち? それに今、【糞虫】って言った? この私を……?)
「……んっ!……た、大した自信ですこと」
「私が地球で用いていた受験テクニックをこの世界用に応用すれば、いかな【愚者】でも合格は保証します」
(今、絶対【愚者】って言ったよね?)
「……あ、あんっ! で、ですが、あなたがいかに優秀な講師だとしても、私にはあなたを信じきれない理由がありますの」
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