01 出撃

2/30
前へ
/331ページ
次へ
 少し満足そうに口角を上げて、彼女は白衣の内側に手を突っ込んだ。  出してきたものを唇の端に挿む。 「医者がタバコとかいいのかよ」 「電子煙草だからな」  彼女は軽く言って、そのタバコから煙は出さずにどこかと通話する。 「――真子(まこ)、彼が起きた」  その名前にも馴染みはない。  状況がまったく理解できず、俺は彼女を睨むように見上げるばかりだった。  体に痛みはない。全身を打った覚えがあるが、治っているようだ。  俺は、やや大きなベッドに寝かされていた。頭を巡らせると台に乗った小さなテレビが目に入る。他にはサイドテーブルと丸椅子、病院の設備なのか何かの機械。他のベッドはない。個室のようだった。窓が遠く、外の様子は見えない。  入院も何度目になるだろう、それに、あの事故からどれくらい経ったのだろう。経験的には全治十数ヶ月とか、そんな感じがするが―― 「なあ」  声をかけてみる。 「えっと――屋戸、さん?」 「梨香でいいよ。何か?」  薄い笑いとともにそう言われた。 「ここは、どこなんだ?」  俺の質問に梨香が答えるよりも先に、部屋のドアが開いた。 「私よりも適任が来たから、そっちに聞いてくれ」
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加