01 出撃

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01 出撃

 最初に聞こえたのは、女の声だった。 「おっ、目覚めたね」  自分の部屋ではない真っ白な天井で、直感的に病室だと思った。  あの時、俺は死んだと思ったのだが、どうにか生きてたってことか。  首を巡らせると、視界にショートカットの女の顔が入ってくる。  知らない人だった。何度か入院したことのある病院ではないのか。  俺が寝ているベッドのすぐ傍に座っていた白衣の女は俺と目が合うと、にっと歯を見せた。  濃いめの眉にも一重の目にも細めの顔にも、やはり見覚えはない。  胸元のパスにある『屋戸(やと)梨香』というのがこの女医の名前のようだ。 「気分はどう?」 「悪くない――あんたが医者か。ここは?」  女が少し眉をひそめる。 「あんた、とはずいぶん失礼だな。今日のところはいいけど、口の利き方には気をつけろよ。  ――それで、自分のことは思い出せる? 名前は?」  質問で返されて内心ムッとしながらも、答えてやる。 「加古侑叶(ゆうと)。バイクで事故に遭ったことくらいは覚えてる」 「うん、記憶も大丈夫そうだな」  涼しげな声なのに、まったく女っぽくない喋り方だった。
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