Happy Bath Time

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Happy Bath Time

「疲れた」  歩き疲れて鉛のように重くなった脚は、玄関に入った途端にもう一歩も動きたく無いとストライキを起こして動作を止めた。駄目だ、これ以上動けない。大量の衣服とお土産と思い出の詰まったスーツケースは手で持ち上げるには重すぎる。でも、脚が動いてくれないのだから仕方が無い。  いつも旅行から帰るとこうだ。貧乏旅行かつ貧乏性の私にとって一番堪えるのは脚で、旅の途中は色んな言い訳をこしらえて何とか脚に言うことを聞かせるのに、家に帰ってくると急に駄々っ子みたいになって私を困らせる。  それに今日は、いつもなら玄関まで迎えに来てくれるはずのお母さんが来ない。脚も言うことを聞いてくれないのに、お母さんも来ないとなれば、疲れで苛立った私の口調も自然ときつくなる。 「お母さん、いないの?」  二階に続く階段に向かって声を張り上げると、少ししてからガタンと扉が開く音がして、お母さんが二階の手すりから顔を覗かせた。 「ごめん、寝てた。おかえりなさい」     
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