Happy Bath Time

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 サービス業で月六日休みの私は、月の休みが少ないのと繁忙期は休めない代わりに、それ以外の時期は申請すれば割とまとまった休みを有休を使って取ることが出来る。これは、離職率が高い会社を変えようと、去年の今頃から社長の肝いりで始まった制度だけれど、正直、休みを申請すると周りからは嫌な顔をされるのが現場の本音だ。最初は後ろめたい気持ちで旅行を始めたけれど、今では休みの申請も手慣れたものになっている。 「また旅行に行くのね」  なんて社内の人に言われても、ご当地のマスコットやお菓子や美容品を丁寧に配り、仕事の時は積極的に周りをサポートし、進んで残業もする。それを免罪符に何とか私は休みを勝ち取っていた。  何よりありがたいのは繁忙期がずれれば、旅行が安く済むこと。だから私は会社を辞めないで今の会社で働き続けている。  言うことを聞かなかった脚が徐々に動いてくれるようになると、私は熱いお湯の中で思い切り脚をばたつかせた。私が好きなのは海外旅行で、しかも貧乏旅行だから、ホテルも決してグレードの高いホテルとは言えない。だから、疲れた脚を癒やすバスタブも存在しない。出来る限り色んなところを回って、世界を知りたい。あのちっぽけな世界が私の世界なんかじゃ無くて、今見ている世界も立派な現実なんだと知りたい。そうやって切羽詰まるように旅行を始めて、心は満足しているはずなのに、代わりに脚が悲鳴を上げている。人間って難しいな、と思う。  旅を何度かするうちに、拙い英語も覚えて、旅先の人と簡単な会話も交わせるようになった。 「日本の良いところって、どんなところ?」     
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