記憶

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俺ら高校違うじゃん?お互いの高校も遠いし、家も…。それに俺、部活続けるつもりで、だから…ごめん。 そして郁人は本当に申し訳なさそうに、少しだけ笑って言った。 「でも、ありがとう」 私の目を見つめ、言葉を選びながら話す彼の少し高めの声と、優しく穏やかなその口調が、余計に私の胸を熱くさせた。 ああ、私はこの人が好きだ。本当に、好きなんだ。 フラれたその場にいながら、自分の恋心が燃え盛るのを感じていた。もう、どうしようもないのに。 部活を続けてもいいじゃん 家が遠くても、高校が離れてても、全然問題ないよ 私が会いに行くよ そう、言えれば良かった。 あるいは泣いて、すがって どうして私じゃダメなの 遊びでもいいから付き合ってよ 付き合ってみたら好きになるかもしれないじゃん そんなふうに言えれば良かった。 でも、言えなかった。 溢れそうになる涙をぐっと堪えて、わかった、と声にするだけで精一杯だった。
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