記憶

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私は、最後まで泣かなかった。 去りゆく彼の背中を見送ってからも、裕子にダメだったと伝えたときも。 私は泣かなかった。 泣かなかったのは、私の細やかな抵抗だ。 郁人に会えるのはきっとこれが最後だろうと感じていた。高校生になれば、私達は違う世界で違う人生を歩み始める。私と郁人の人生が交わることは、きっともうないのだ。 だからせめて、彼の記憶に残る私は笑顔のままでいたかった。いつの日か郁人が私を思い出した時、彼の脳裏に映るのは、笑顔の私がいい。 それに、泣いたりしたら優しい彼を困らせてしまう。 郁人の前に立つ私は、最後まで潔い女の子でいたかった。
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