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「しかし久しぶりだよな。卒業して以来だから…7年ぶりか」
「改装した割にはあんまり変わってないね」
暗闇の中そびえ立つ建物は、確かにあの頃とあまり変わらない。去年、古くなった一部の校舎を建て替えただけらしいので、変化に乏しいのは当たり前と言えば当たり前だ。とりあえずグラウンドに行こうと歩き出した時、ラインの着信音が鳴る。
「お、郁人」
そう呟くように言った幼馴染のハルと目が合った。鼓動が早くなる。名前を聞くだけでドキドキするなんて、馬鹿みたいだ。ハルはまだこちらの様子を窺っている。取りなよ、と告げると、少し頷いた彼は右手で携帯を持ち、左手をヒラヒラと動かして先に行ってろと合図をした。気が付けば、隣には心配そうに私を見つめる祐子しかいない。男子組はずいぶん先を歩いていた。
「あれ?もうあんなとこまで行ってる。酔っ払いのくせに早い」
祐子は少し黙った後、大丈夫かと聞いた。
私は笑って大丈夫と答える。
彼女が何を心配しているのかは、わかっている。
「本当に本当?」
「本当に本当。ありがとう、心配してくれて。でも本当に大丈夫だから」
祐子はまだ納得いかないという顔だったが
「桜がそう言うなら信じる」
そう言って、私の背中をポンと叩いて笑った。私も同じように祐子の肩を叩く。
「祐子、先に行ってて。私はハルと追いかける」
後ろからは、静かなハルの声が聞こえる。
電話の向こうで話すあの人の声が耳の奥で響いた気がした。
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