記憶

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グラウンドへ向かう祐子の背中を見送った後、私は右へと歩を進める。そのまま真っ直ぐ行くと、突き当りに大きなゴミ箱が視界に入った。それを目印に左へ曲がるとすぐに、私の目指す場所があるはずだ。辺りは静寂に包まれていて、コツコツと鳴るヒールの音だけが耳に届く。 「あった…」 小さな階段と、その脇にある一本の桜の木。背が低く細いその木の枝には、満開の桜が咲いていた。私はそれに近付き、手を伸ばした。 「元気だった?7年ぶり。キミは相変わらず背が小さいね」 ザラザラとした幹に両手を当ててみる。この場所は7年前と何も変わっていない。それがあの日の記憶をより鮮明に思い出させた。何気なく右のポケットに手を入れると、硬いものが手に当たる。 胸がキュッと痛んだ。
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