記憶

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彼と過ごしたのは、たったの1年だった。その1年間で郁人との間に起きた出来事の全てを、忘れたことは一度もない。彼と交した数えられる程度の会話の全ても、初めて話しかけられた日の初夏の風も、初めて名前を呼ばれた瞬間の胸の高鳴りも、一瞬触れた手の冷たさも、全部。その全てが、今も私の心を捉えて離さないのだ。 もちろん、あの時の申し訳なさそうな笑顔も、「ごめん」と呟いた優しいあの声も。 私は郁人が、心の底から好きだった。生まれて初めて、この想いを伝えたいと思うほどに。 私と同じ想いじゃなくてもよかった。遊びでもよかったし、私を好きじゃなくてもよかった。彼の側にいれるのなら、理由なんて何でもよかった。 だから卒業式の日、郁人に告白することを決めたのだ。
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