記憶

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あの日、卒業式の日。前日から続いた季節外れの強風のせいで、満開になりそうだった桜の花弁は全て落ちてしまっていた。私はその細い木を眺めながら、裏門に続く小さな階段に座って彼を待っていた。 告白は、卒業式が終わってからだと決めていた。だから、式の間のことは何も覚えていない。ただ、友人達との別れを惜しんで泣く暇はなく、ひたすら緊張していたことだけは覚えている。 何て言おうか。 何と言えば、彼にこの溢れる想いを伝えられるだろうか。 そのことばかりを考えていた。 彼を待っている間もずっと、そのことだけを考えていた。 トコトコと歩いてくる音がしたとき、卒業式に湧く周りの喧騒が全く聞こえなくなった。ドクドクと鳴る鼓動の音は、大好きな人の足音だけを残し全ての音を遮っていた。あまりの緊張から、体が震える。彼のつぶらな瞳が私の姿を捉えたとき、私は一瞬、息をするのを忘れていた。目が合った私は、反射的に立ち上がり、彼を迎えた。
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