(1)他人以上、友達未満

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 穏やかそうな雰囲気、優しそうな笑顔、そして細やかな気遣い。派手さこそないが、千夜子は継生からはとても真面目で誠実そうな印象を受け入ていた。  モテすぎず、モテなすぎず、派手すぎず、地味過ぎない。至って、普通の彼。そう、フツメンと言われる部類。  千夜子は店員からグラスを受け取って「はい、千夜子さんの」と言って渡してくれる継生を眺めながら口元を緩めた。  まさに「丁度いい感じ」の彼に、いいなぁという感情を抱きながらファジーネーブルを口に含む。 「えぇ、千夜子ちゃんなに飲んでんの? カクテルとか飲んだうちに入らないって。あんなのジュースじゃん!」 「もう! あんたさっきから飲み過ぎなんだってば!」  飲み会に一人いると助かる騒がしいお調子者、そしてそんな彼を宥めるしっかり者のお姉さん。  それを見て笑う男女。それに気づかずに自分達の世界で会話を進めている男女。  そして……、 「剣十くん、お酒好きなんですか?」 「うん、まあ。一応なんでも飲めるよ」 「え~すごい。お酒飲める男性っていいですよね。私、飲みたいんですけど弱くて……」  誰が見ても一瞬のうちに時間を奪われてしまうほど、整った顔立ちをした彼、古川剣十(ふるかわけんと)。そしてその隣には小動物のような可愛らしさを振りまいている阿久井瑠里(あくいるり)がいた。  私達はこの日、初めて出会ったもの同士だった。  社会人になってしばらくが経ち、アラサーに突入して周囲も結婚し始め、新しい出会いも減り、結婚した友人とは独身の頃のように会えなくなってしまった。  もちろん男性との出会いだって欲しかったし、気軽に遊べる友人だって欲しかった。そんな時に、なにげなくネットで見つけて参加した飲み会で私達は出会った。  半信半疑で参加表明をし、当日指定された集合場所へ向かう。  それとなく人が集まっているのを見て、本当に開催されるんだ……と、急に実感がわいてきたと共に、なんだか怖くなってきた。  千夜子はスマホをぎゅっと握りしめ、周囲を小さく見回しながら集合場所で立ち止まる。そして一人という寂しさと恥ずかしさを埋めるかのように、スマホを淡々といじった。
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