二、薬師

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「外の雪は、止みましたか?」 「はい。今朝方止んでからは降っておりませぬ」  決して自ら開けることの無い障子の向こうに広がる景色に想いを馳せてか、陽様はしみじみと呟く。 「そうですか。このまま貴方達が戻るまで、晴れていればいいのですが……」  そして、襦袢(じゅばん)(えり)を合わせ直され、不安げなため息を吐きなさる。  俺と狐の身を案じられているのであろう。 「──雪は、怖い。光も音も、人の命も何もかも吸い取ってしまいそうで……。夜の闇より、ずっと怖い」  体調の所為か寒さの所為か、はたまた恐怖か。  衿を掴む手に、(わず)かに力が入るのが感じ取れる。  俺は陽様を励ます為というわけではなかったが、目線を上げて陽様の瞳を見つめる。 「案じなされますな。雪では太陽にかないませぬ。いくら漆黒の闇に降り積もろうと、朝日が射せば溶けてしまい、たとえ渋太(しぶと)く残ろうとも、やがて全て消え失せます」 「──……兎……」 「あなた様が感じておられる恐怖など、あなた様の温もりで消えてしまいます。兎、明日それを証明して参ります」  ──ふっ、と場の空気が和らいだ。 「……ありがとうございます、兎。あなたの言霊も、病を癒す妙薬ですね」 「…………」  その言葉には面映(おもは)ゆさしかなかったが、陽様に少し笑顔が戻られたのを見て安堵し、俺は目線を手元に戻す。  しかし、やはり陽様は物憂げに深く一息吐かれる。 「……いつになれば、床から出られるのでしょう」 「今暫くの辛抱なれば」 「花咲く頃には里に出たいものです。その時は兎、あなたに里の案内を頼んでもいいですか?」 「(それがし)でよろしければ」  見なくとも、その笑顔が儚いものなのは伝わってくる。  俺は何とも遣る瀬なく、しかし、出来るのは薬を磨り潰す事だけだ。
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