二、薬師

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「可笑しな話ですね。余所から来たあなたの方が、頭領と呼ばれる私より里に詳しいのですから」  ──奥歯が、痛む。  だが、俺の歯噛み等何になろうか。 「──陽様が大層お気に召しておりました桜の木は毎年美しく花をつけ、近くの小川の小鮒(こぶな)はいつも変わらず水を()ねさせ泳いでおります。里は、陽様の知っておられる里と何ら変わりはございませぬ。……案外、がっかりなされるかもしれませぬ」 「ふふっ」 「どうなされました?」 「いえ……今日はよくお話ししてくれますね」 「──……」  俺はふと気恥ずかしくなって、動かす手を早めた。 「気に障りましたか? すみません」 「いえ……」  そして、静寂。本当に全ての音が雪に吸い込まれてしまったのかの様に、静かだ。  互いの息遣いさえあやふやな程──。 「──薬が出来ました。今宵はこれを飲んでいただき、ごゆるりとお休みくださいませ」 「……いつもありがとうございます、兎……」  いつになれば、と問われれば──。  もう暫くの辛抱なれば──と。  俺は、拳に力を込めずにはいられなかった。  もう暫く。  陽様も、俺も──。
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