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「──なぁ、兎」
山道を踏みしめる最中。おもむろに俺の名を呼ぶ狐に、振り返りもせず「何だ」と訊く。
「その若菜だか新芽だか薬草だかがあれば、陽様はすぐに良くなるのか?」
「すぐにというわけにはいかないが、病は治る故、いずれは快復なさる」
「……そうか。よく分かんねぇけど、お前が言うならきっとそうなんだろうな、うん」
嬉しそうに頷く狐は、もうすっかり任務をこなした気になっている。
「そうなれば……。兎、お前の薬師としての任も軽くなりそうだな。それに、里での立場もだいぶ良くなりそうだ」
「あまり興味は無いが……そうやも知れぬな」
「そうか……うん。きっと、そうだよな……」
何やら得心するように独り言ちる狐を怪訝に思い、軽く振り返る。
「そしたらさ、兎……さ。あたしと──」
と、狐が何かを言わんとしたその刹那──。
「───!」
突然、つぶてが俺たちを襲った。
狐は舌打ち交じりに、小刀でそれを打ち落とす。
「こんな時に──。隠れてないで出て来やがれ」
両手に小刀を握り、すっかり戦闘態勢に入った狐が吐き捨てる様に言うと──。
木陰から、小汚い男三人がにたにたと笑いながら現れ出た。
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