美しいままの家族

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『お邪魔をしますね』『失礼をする』 私と優の幼馴染みの男女の二人で、学校の同級生の男子である北条の自宅がある集合住宅の一室にお邪魔をすると。北条は先ずは明かりを付けて、真っ暗になっている外の世界から見られないように、カーテンを閉めると。 『何か飲むか二人とも?。おっと、悪いな九条』 普段男子で独り暮らしをしている北条が、私に一言謝罪をすると。壁に掛けてあった何も着ていない女性の写真に、日付が記されているカレンダーを外そうとしたので。 『気にしなくて構わない北条。私は芸術家を志しているからな。裸身の女体を画材として、幾度も絵を描いているから気にはならない』 私の返答に北条は、私の幼馴染みである大切な友人の優の方を確認するように見たので。優が小さく構わないという表情で頷くと。カレンダーを外すのを止めて冷蔵庫から飲物を取り出して。 『九条は芸術家志望だからな。俺はボクシングで特待生待遇を受けている立場だが。一つの道を目指しているという意味では同じなのかもな』 北条が卓袱台の上に用意してくれた飲物を受け取り、一言お礼を言ってから飲みながら。室内を見渡した優が。 『サンドバッグ以外には、生活を送るのに必要最低限の家具しか置いていませんね。北条君は、テレビも観ないのですか?』 優の疑問に北条は、飲物を一口飲んでから頷いて。 『ああ、藤原。特に観たいと思う番組は無いしな。新聞も取っていないしな』 北条はボクシング選手を目指す特待生として、かなり禁欲的な生活を送っているようだな。 『あの集合写真は、北条の幼い頃の写真かな?』 部屋の片隅に、幼い頃の北条だと思われる少年と。家族と思われる人達が一緒に写っている写真が、写真立に入れられて置いてあったので私が尋ねると。北条は写真立の方を振り向きながら頷いて。 『ああ、九条。唯一残った家族との集合写真になるな。いつ写したのかは、もう覚えていないが。俺が覚えていないと、両親や家族の事を覚えている人間が、この世から一人も居なくなるから。毎朝起きたら声をかける事にしている』 私と優の二人は、同級生である北条一家の過去に何が起こったかは以前に聞いた事があるので。それ以上は敢えて触れない事にした。 『今日はありがとうな二人とも。家で独りでいると気が滅入る時があるからな。礼を言う』 北条は私と優に、静かに頭を下げた。
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