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伝える想いと真実
──肌寒さを感じて目が覚めた。ぶるっと身震いする。
隣で健康そうでなおかつ満足そうな寝息を立てている美恵を起こさないようにベッドから抜け出し、テーブルに置いてあったスマホで時間を確認する、午前五時を二分過ぎたところだった。
そのまま外出着に着替えてコートのポケットにサイフとスマホを入れて、起こさないように静かに部屋を出る。外気が顔に張り付き一気に目が覚める。
身体をほぐすため階段を使ってエントランスまで降りて道路に出ると、さてどこに行こうかと迷う。
言葉で伝えようとするとまたスイッチが入ってしまう可能性があるから文章で伝えようと考えたが、部屋では落ち着いて書けない。起きてくるかもしれないからな。だからどこか飲食店で書こうとしたが、近所にこんな早朝にやっている店はひとつもなかった。
どうしようと考えていると、イートインコーナーがあるコンビニが近くにあるのを思い出しそこに向かう。よかった開いてたし空いていた。
缶コーヒーを買うとイートインに移り、とりあえずひと口飲んで頭を起こす。
そして考えがまとまると、三つのメールを打つことにした。恵二郎のこと、実家のこと、そして美恵へのことだ。
※ ※ ※ ※ ※
メール1:恵二郎のこと
おはよう美恵。このメールは近くのコンビニで打っている。今から三つのことを話すから聞いてほしい。
まずは昨日のヤツのことだが、アイツは妹でも妻でもない、弟なんだ。恵二郎といって三つ下、美恵の一つ下の兄弟なんだ。彼には女装癖がある。
言い出せなかったのは、そのことを知った美恵に幻滅されるのではないかと怖かったからだ。
だけど嘘をつきたくないから正直に話す、昨日のアイツは恵二郎という女装癖のある弟だ。
──ここまで書いて送信しようとしたが、まだ二つあるのでいったん下書きに保存する。続いて実家の事だ。
メール2:実家の事
二つ目は実家の事だ。実家は旅籠をやっていてわりと歴史がある。祖母が女将で母が若女将をしている。
子供は僕と恵二郎の二人しかいないから、結婚すると半強制的に女将修行をする流れになるかもしれない。
もちろんイヤなら断れる。僕も強制するつもりはない。ただそういう問題が起きるだろうから意識的に美恵には話さなかった。僕が未来から目を背けていたんだ。
そして勢いのまま三つ目を打つ。
メール3:美恵へ
昨日言いそびれたことをすべて話した。その上であらためて申し込む、結婚してほしい。
今すぐ返事しなくてもいい、僕は美恵と一緒にいたい、こんな家庭の僕でよかったらこれからも一緒にいてください。
三つ目を下書きに保存すると、一回深呼吸して一斉送信した。
冷めたコーヒーの残りを飲み干すと、ひと仕事やり終わった脱力感が、僕の身体にまとわりついた。
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