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時間を確認すると午前六時半を過ぎていた。まだ戻りたくはないが、ここに長く居るわけにもいかない。とはいえ他に行く所もないし、この寒空の下歩き回りたくもない。
雑誌コーナーに行き、週刊マンガ雑誌を買って読みながらもうしばらく時間をつぶすことにした。
それを読み終わった頃に通話の着信があった。画面を見ると美恵からだ。緊張して着信をタッチする。
『あ、圭一郎さん、今どこなの』
「近所のコンビニだよ」
『まだそこに居たのね。朝ごはん用意できたから早く戻って来てね』
それだけ言うと切られてしまった。……、あれ? リアクション無し? なんで?
けっこう腹をくくってメールしたんだけど、昨夜の大騒ぎがまるでなかったような、いつもの様子な感じの口ぶりだった。なんで。
考えていてもしょうがない、雑誌と缶コーヒーをゴミ箱に捨てると、コンビニをあとにしてマンションにもどる。
※ ※ ※ ※ ※
「おかえりなさーい、今朝は昨夜のシチューとトーストよ。コーヒーも飲むでしょ」
「あ、ああ」
薄手のセーターに膝下スカート姿の美恵が笑顔で迎えてくれる。しかも肌ツヤが実にいい、昨夜全力で愛情表現したせいだろうか。まああれだけ懇切丁寧に手間暇かけて足が攣りかけるまで愛したんだ、そのおかげと思いたい。
ダイニングでいつもの席に座り会話も無くもくもくと食べて片づけると、席を立った美恵が僕の手をとり引っ張ってリビングに連れていく。
そして正座すると僕に向けて頭を下げる、土下座だ。慌てて僕も正座する。
「昨日はごめんなさい。メールを読みました。いろいろと悩んでいたのね、わかってあげなくてごめんなさい」
──いつもの美恵だ、完全にスイッチが切れてる。とりあえず頭を上げてもらう。
「こっちこそごめんな。もっとさらっと言えればよかったんだけど、考えすぎちゃったな」
「ううん、弟さんのことはともかく、御実家さんのことは悩むよね。一緒に暮らしてはいるけど、まだまだお互い知らないこと多いんだなってあらためて思ったわ」
「恵二郎のことはいいの」
「ほら、あたしの仕事ってそういう人によく会うから全然気にしないわ。むしろ会いたいくらいよ」
「そうなんだ」
──ほっとした、心底ほっとした。
「全部話してくれてありがとう。昨日は本当にごめんなさいね、あたしも本当のこと言うけど、イブの夜にプロポーズされるのが昔からの夢だったの。イブが近づくにつれて気持ちが昂ぶっちゃって、婚姻届取りに行ったり、先走って先に名前書いたりしてどんどんのめり込んでいっちゃったの」
──なるほど、そういう下地があったのか。
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