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イブの夜の出会い
──僕こと起圭一郎は途方にくれていた。
同棲中の恋人である美恵が一昨日からふさぎこんでいる。少々思い込みが激しいのでまた何か悩み過ぎているのだろうと思い、ちょうどイブだから気分転換に駅ビルにある食事もできるカフェで、ディナーでもしようと昨日の夜に伝えたのだが……。
「圭一郎さん、浮気してるでしょ」
先に来ていて予約していた席で待っていた僕に、つかつかとやってきた美恵はコートも脱がずに座ると同時にそう詰問してきた。もちろん心当たりはない。
そのまま黙り込む美恵を相手に、何を勘違いしているのかを訊かないとせっかくのイブの夜が台無しになってしまう。とりあえず浮気していないことを伝えなければ。
「あのね、美恵はなにを根拠にそう思っているか分からないけど、僕は浮気なんかしていないよ。そりゃあ仕事上とか昔の知り合いとかに会って、食事とかお茶くらいはするかもしれない。だけど美恵を悲しませるような、たとえば一線を越えるようなことなんて絶対しないよ」
俯いていた美恵の肩が縮む、しまった言葉のチョイスを間違えたか。一線なんて言わなければよかったか。
「……おとといね……ホテルから出てくるところ……見たのよ……」
とつとつと話す美恵の言葉に、ようやく何が原因で勘違いしているのかを理解した。アイツのことか。
「……腕組んでてね……相手の女がすごく楽しそうで……それで圭一郎さんにおカネを渡していたの……」
──やっぱりそれか、ああ、そういう事ね。
「あのね美恵、それはそうじゃなくてね──」
「誰よ!! あの女っ!!」
怒りのあまり立ち上がり、店中に響く声で責められた。イブの夜だからかほぼ満席だったよな。顔を動かせないけれど間違いなく僕たちは注目の的だろう。
「落ち着いてくれ美恵、アイツは──」
その時僕は目を疑った。今話題の人物が店に入ってきたのだ。
「は~い、って、修羅場だった」
脳天気な呼びかけに美恵は振り返り、相手がかの人物だとわかると殴りかかる一歩前の体勢をとる。
「お前のせいでこうなっているんだよ、いいから自己紹介しろよ」
「いいの」
「ああ、全部な」
自分を置き去りで話し合っているのがよけいに腹が立つのだろう、美恵は鬼の形相となっていた。
「はじめましてお姉さん。は、まだ早いかな。兄がお世話になってます」
美恵が突如としてきょとんとする、そして僕と相手の顔をじろじろと見比べる。
「──似てる……、じゃあキョウダイなの」
「そんなに似てるかな」
「似てるよぉ、けいちゃんアタシに似てイケメンだもん。ね、お姉さん」
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