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急速に美恵が素に戻っていくのがわかる。
「え、じゃあホテルから出てきたのは……」
「あ、見られてた? ちょっと前まで海外にいたんで今ホテル住まいなの」
「泊まっているだけだろうが」
僕のツッコミに、てへっと舌を出す。
「あ、じゃ、じゃあ……おカネは……」
「あ、それも見られてちゃった? じつはちょっと借りててね、それを返したの」
「貸した分には程遠いし、ホテル代も立て替えてやってるんだがな」
「だあってぇ、けいちゃん引っ越してるんだもん、泊まるトコなかったしぃ」
まるで僕のせいだと言わんばかりの言葉に呆れ返る。そしてそのやり取りから僕らが血縁関係だと信じてくれたようだ、美恵の顔がどんどん赤くなっていく。
僕達が座っている席は入り口近くで窓際にあり、そこからウインドウ越しに駅前のイルミネーションが見える。本来なら「キレイだね、素敵な夜ね」などという会話ができる場所だった。
そしてこの席は僕からは店内は見えないが、美恵からは見える位置なのだ。おそらく店中の視線が集まっているのを感じているに違いない。
「ご、ごめん圭一郎さん、あたし先に帰るね」
「お、おい」
「妹さんもごめんなさい、また今度ゆっくりとね」
さっきまで殴ろうとする相手に愛想よく挨拶をして、そそくさと美恵は出ていこうとする。
「待てってば、料理はどうするんだよ」
「妹さんと食べて。それじゃ」
立ち上がって追いかけようとしたが、すでに店の外に出てエスカレーターで降りていくのをウインドウ越しに見て、あきらめてやめることにした。
「いいの?、追いかけなくて」
「……ああ、少し時間がほしい」
追いかけてつかまえてそれから……そう、それからどうするのだ。どう説明すればいいのか、それを考えたら追いかける気になれなかった。
「お前のことをどう説明すればいいか……」
「普通に話せばいいじゃん、なんもやましいことないんだからさ」
顔をしかめている僕をよそに、当たり前のように前の席に座ると店員に料理を持ってくるように催促する。
──どうしようもない、コイツと食事をするしかないか。
勝手にワインを注文して、乾杯を催促されて仕方なくグラスをぶつける。
「んー、美味しい~」
そりゃよかったな。
「で、なんで揉めてたの? けいちゃんが浮気なんてするはず無いし、なんか怒らせるようなこといったの?」
「お前のせいだよ!!」
コイツが来る前の経緯を口早に説明すると、ケタケタと笑われた。
「あはは、なんだ、兄弟だって説明すればよかったじゃん」
「女装趣味の弟だなんて言えるか」
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