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恵二郎の質問に答えず、さっさと会計をすませて店を出て足早にマンションへと向かう。
「結婚か」
二十七という年齢は結婚を考えるのにじゅうぶんな歳ではある。しかし今は考えてはいない、仕事の方が楽しいからだ。
「それになぁ」
つきあいはじめてまだ一年も経ってない。同棲しているからわかるが、たぶん僕は美恵と結婚するだろう、そんな予感がする。それでもまだその話をするには時期尚早だと思う。それに──実家の事もある。
──うん、まだその話をするのはやめよう。それよりも今は恵二郎の誤解を解かなくては。あれは妹ではなく弟なんだと伝えよう。
※ ※ ※ ※ ※
駅西の出口を抜けると、もうすぐ帰るとメールしてから駆け足で向かう。道路に面した五階の部屋を見ると、明かりが点いているのを確認してホッとする。ちゃんと帰っているな。
マンションに入りエレベーターで五階まで上がって部屋の前に着くと、呼び鈴を押す。
「おかえりなさーい」
ドアロックを外して開けた美恵は満面の笑顔で迎えてくれる。たぶん照れ隠しであまえてくるだろうと予想していたから驚かない、だが別のことで驚いた。
「なんて格好をしているんだ」
美恵は裸にピンクのエプロン、いわゆる裸エプロン姿だった。
「えへへー、圭一郎さんが喜ぶと思って」
「とにかく中に入るぞ、そんな格好を人に見せたくない」
慌てて中に入ってドアを閉める。後ろ手でロックすると美恵が抱きついてくる、条件反射で抱きしめ返すと違和感を感じた。
「あれ、これってひょっとして……」
「へへー、裸エプロンじゃなくて、裸柄全身タイツエプロンでしたー」
「なんだ、びっくりしたよ」
同時にがっかりもしたけど、ホッとした。
「でもこの裸柄、ちゃんとあたしの裸をプリントしてあるんだよ」
「それじゃ意味ないだろう」
まったく──かわいいヤツめ。
とりあえず靴を脱ぎ、あがり込んでコートとスーツを脱ぐ。それを美恵が甲斐甲斐しくハンガーにかけてくれる。部屋着のスウェットに着替えるとダイニングの自分の席に着く。
「晩ごはんはどうしたの」
「まだ。さっきまでシチュー作ってたの、圭一郎さんはまだ入る?」
「そうだな、少しいただこうかな」
正直腹いっぱいなのだが、二人で食事したい気持ちがまさった。イブの夜に美恵がひとりで食べるなんて事をさせたくなかったから。
出されたシチューはクリームタイプで、ブロッコリーとニンジンとチキンが入っていた。
「いいでしょ、クリスマスカラーで。うちは毎年これなんだ」
緑と赤と白でクリスマスカラーね、なるほどと思いながらいただきますをしてひと口ほお張る、うん、美味い。
「これって思い出の料理なんだ」
美恵が食べながらそう言う。
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