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「そうなんでしょ、圭一郎さん、だってあんなに仲良かったし、解りあってる感じだし、ホントは結婚しているんでしょ!! だって今までおウチの事や、家族の事話してくれたことないし、なんか落ち着いてるし、単身赴任先の 便利な家政婦とか思ってて、様子を見に来た奥さんとホテルで仲良くしたところを見られて咄嗟に妹にしたんでしょ、そして妹のふりしてご苦労さま家政婦さん、でも私は本妻よ、この人は私のものよなんて腹の中で笑ってて、二人してバカにしてたんでしょぉぉぉ!」
「ち」
違う! と言う前に一気にまくし立てられた。よくもまあそれだけ一気に言えるなと同時にストーリーを考えられるなと呆れる前に感心した。それともそういう内容の話を読んでいたのかな、だったらすごい偶然だな。
「ちょっとまてって」
美恵の感情の高ぶりがとまらない。やはりいつものスイッチが入ってしまったらしい。
「そうでしょ! そうなんでしょ! 」
「まてってば」
「まてって何よ! あたしはイヌじゃないわよ! 」
「そうじゃなくて、まてってば」
「また言った! このあいだもそうよ! どうどうって! あたしはウマじゃないわよ! どうせあたしはペットみたいな存在よ便利な存在よ! 二人してあたしの事、嘲笑ってたんだぁぁぁ!! 」
「そんなことしてないってば」
「どうせアタシなんか都合のいい女よ、隠し妻よ、現地妻よ、もうリコンしてやるー」
「結婚していないだろうが!」
「ケッコンしないって言ったぁぁぁ!!」
「いや、結婚してなくて、じゃなくて、結婚しなくて、じゃない、ああもう、そうじゃなくて」
「やっぱり結婚しないんだぁぁぁー!!」
美恵は、座り込んで泣き出す。
「するよ!」
思わず言った僕の言葉に、ピタッと美恵が泣き止んでこっちを見る。
いきおいで言ってしまったが予定変更だ、このままプロポーズしてやる。
「結婚するなら、お前とだ」
「……ホント?」
「ああ、ホントだ」
さっきまでの大騒ぎがなかったかのように、笑顔で訊いてきた。どうやらスイッチが切れたらしい。泣き出すのも終わるのもいきなりだなんて器用な奴め。
美恵は立ち上がり、今日持っていたバッグを持ってくると、中から折りたたまれた紙を一枚出した。
「はい、これ」
「なにこれ」
美恵が微笑みながら紙を拡げて見せる──婚姻届だった。しかももうすでに美恵の分は署名捺印してある。
「──なんで持ってんの?」
「一昨日市役所に取りに行ってきたの」
──ああ、だから駅の東側にいたのか。市役所は東側にあるのだ。
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