花びら

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花びら

 世間がバレンタインデーだのチョコレートだのと浮かれ上がっているいまこの時にも、俺は薪ストーブの上で湯気を上げ始めたぶり大根のアクを取りながら、ラジオから流れてくる音楽に合わせて鼻歌を歌っている。    あなたへの想いが、この花びらに乗って、どうか届きますように。  あまく優しい声音でそう歌う男は、どんな恋をしたのだろう。  無口で純粋で、でも心のなかはいつだって凶暴な嵐が吹き荒れていたのだろうか。  彼に恋い焦がれていた長い年月を思い出し、そんな思いに耽っていたら、ふいに電話が鳴った。  無理しなくてもいいよ。こっちは雪、結構降ってるから。  うん、うん、……待ってる。  電話を切って、はあ、と息を吐き出す。 『いや、行くから』  迷いのない答えが嬉しくて、自然と頬が緩んだ。  深夜零時をすこし過ぎた頃、砂利道を踏むタイヤの音が聞こえて、俺は家を飛び出した。  外はつんと尖った寒さだ。いまは降っていないが、雪がうっすらと地面を覆っている。 「寒い」  車から降りて、そうつぶやきながら身を竦めたから、俺は腕を伸ばして、彼を抱きしめた。 「雪、平気だった?」 「途中かなり降ってて、怖かった」  彼は決して物事を大げさに表現しないひとだから、怖かった、というのは、実は本気で怖かったのだと思う。  そんな思いまでして、こんな夜中に、わざわざ俺に会いに来てくれたくれたことが嬉しくて、しあわせで、俺はいつまでも彼の身体にしがみついていた。 「寒いから、早く部屋に入れて」  俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で、困ったように笑いながら、彼が言った。
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