朝の光

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朝の光

 その朝思い立って、郊外のショッピングモールへと出かけた。梅雨の終わりの、大雨が何日も降り続いた後、ようやく薄日が差した朝で、家のなかは湿気でどんよりと重苦しく、そこにいるだけで気分が滅入ってしまいそうだった。ちょうど本格的な夏の前にシーツを新調しようと考えていたから、迷わず車に乗り込んだ。  寝具売り場で、ひとつひとつの商品を手に取って肌触りを確かめた上で、オーガニックコットンのものを選んだ。リネンの方が丈夫で長持ちするとは分かっているけれど、あのすました感触がどうしても好きになれない。綿の、くったりと頼りなく、人懐こい感じが俺は好きだ。  シーツは散々迷って、結局二セット買った。グレーと、青と白のチェック柄。おそろいの肌掛け布団と枕カバー、それにタオル地の敷パッドも買ったから、相当の出費だった。それでも週末、このシーツの上で過ごす時間のことを考えたら、それだけで頬がにんまりと緩んでしまう。  彼はどちらのシーツを気に入るだろうか。シンプルなものが好みだから、きっとグレーのほうだろう。でも、青のチェックにしたら、部屋の雰囲気が一気に夏らしくなりそうだ。そんなことをあれこれと考えながら、コーヒーショップのテラスでヘーゼルナッツシロップ入りのカフェラテを啜る。冷たいコーヒーは苦手だから、こんな暑い日でもホットだ。外はやはり蒸し暑く、こうして座っているだけでじんわりと汗が噴き出してくる。  空を見上げると、雲の合間からぼんやりとした陽の光が降りてきた。暑苦しくて、蚊が多くて、どうしようもなく過ごしにくい、それでいて、大好きな夏が今年もやって来る。    
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