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朝目が覚めて、身体を動かそうとした途端、奇妙な違和感に襲われた。まだぼんやりとした頭で、ようやくこの状況を理解する。身体は後ろからきつく抱きしめられていて、まるで身動きが取れなかった。  背中にぴったりと寄り添う身体から、規則正しい寝息が伝わってくる。肩口に温かなそれを感じながら、貴也は大きな溜息を漏らした。こんな風に、行きずりの男と夜明けまで過ごすなど、貴也にとってはあり得ない事態だった。  部屋に入るなりくちびるを合わせ、激しいキスをした。何度も舌を絡ませながら、両手で身体をまさぐり合い、衣服を剥ぎ取る。男のくちびると両の手で愛撫される身体をしならせ、震わせながら、貴也は自分自身を解した。「いますぐ欲しい」と耳許で囁くと、男になかば引きずられるようにベッドへと移動した。部屋中に、激しい息遣いと、身体と身体を打ち付け合う音が響く。  男は貴也とほぼ同時に果てた。そのまま貴也の身体に倒れ込み、痛いくらいにぎゅっと抱きしめられる。 「すごくよかった」  男は言った。 「どうかなりそう」 「……俺も、よかった」  嘘ではなかった。男が貴也の髪をふわりと撫でると、頬や瞼に何度もキスが降ってくる。知り合ったばかりの男同士にはそぐわぬ甘やかな空気に、貴也は戸惑いを隠せない。 「シャワー浴びてくる」  そう言って起き上がろうとした貴也を、男は離さなかった。 「嫌だ。……もうすこしだけ、ここにいて」 「でも、」 「このままがいい」  まるで母親に擦りつく幼子のようだ。甘えきっていて、しかし断固として離さないと、目が訴えている。
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