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家が燃えている。 俺の家だ。正確には、俺の住んでいるアパートだ。つい1週間前に入居したばかりの。 4月3日。社会人になって3日目。俺は住む家を失った。 火のまわりが遅かったので、命からがらという程でもなく、貴重品くらいは持ち出せたが、ともかく住む場所がなくなってしまった。命あっての物種などというが、現代社会では命だけあってもなかなか生きてはいけない。 午前1時の夜空と炎の鮮やかなコントラストを眺めながら呆然としていると、知らない男に声をかけられた。 「すいません、このアパートに住んでいる方ですか?」 「そうです。まあ、今となっては住んでいた、ですが……」 ちょっとした軽口が叩けるあたり、俺にもまだ余裕があるらしい。まだ実感が伴っていないだけだろうが。 男は小さくお悔やみのような言葉を口にし、こう続けた。 「住むところが決まるまでの間、私の部屋を使いませんか? ここから歩いて5分位のところなんですけど」 俺は弾かれたように顔を上げ、初めて男と目を合わせた。気の毒そうな表情を浮かべるその男は、30歳前後くらいに見える。髪を剃りあげてスキンヘッドにしているのが特徴的だが、人相はむしろ頼柔らかく、怖い印象は受けない。いきなりの申し出はありがたすぎて戸惑うが、断れるほど余裕があるわけでもない。さすがに「住むところが決まるまで」お世話になるわけにはいかないだろうが、今晩の宿が決まるだけでもありがたい。明日も仕事なのだ。 「そんな、申し訳ないですよ」 と、形だけの遠慮を見せてみるが、形だけなのであっさりと男の申し出を受けることに決まった。
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