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他にも思い当たることは沢山ある。急に外食を控え、自作の弁当は小さく品数が少ない。送別会ではろくに食べず喋ってばかり。でも、何てことないと勝手に思っていた。
聖子が楽しそうに笑うから。頬を緩める彼女を、愚直に信じるしかなくて。
信じすぎた。
「チーズバーガー、ごめんね。冗談なのに本当に用意してくれるなんて思わなくて。良夫さんに全部食べてもらったから、安心してね」
平静を装い、試算する悠真に柔らかな声が落ちてくる。
総額五百万の壮大な式。彼女が好む返礼品、趣味全開の生花祭壇、部長の体面を考えた金額の料理。
書面を確認すると、満足そうに聖子は口角を上げた。後で夫に見てもらうのだろう。丁寧に社名入りの封筒に入れると、棚の上に置いた。
「まさか、良夫さんの菩提寺が成毛寺なんてね。そりゃ、必死になるわけよ。何か笑えるわ」
いつもと変わらない朗らかな表情。前よりも痩せてこけた頬。悠真はちっとも笑えなかった。
「……つらくないんですか。夫婦揃って普段通りの顔をして、気持ち悪いです」
我ながら、ひどい言葉。
だが、本心だった。
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