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 夫は毎日同じ時間に出社し、残業をして、会議に出て、いつもと変わらぬ怖い顔で帰っていく。  妻は葬儀の見積りを、井戸端会議でもしているかのような口調で話す。まるで他人の式の相談をしているかのようだ。 「良夫さんはね、私がこういう病気だって知って結婚してくれたの。だから、大丈夫じゃないけど、大丈夫だと思うわ」 「……そうですか」  この後に及んで、ノロケ話とは恐れ入る。  天国部長の壮大な愛。病気の彼女を妻にする覚悟。悠真の気持ちとは温度も覚悟も違う。そう宣言されたような気がして、唇を噛んだ。 「見積り、取らせてごめんなさい」 「いえ、仕事ですから」 「あなたにつらいことを押しつけてごめんなさい」 「大丈夫です。平気です」 「私は遠藤くんにつらい顔をさせるわけにはいかなくて。だから良夫さんと入籍が決まった時に安心したの。でも、結局、遠藤くんに嫌な想いをさせてしまったわね」  それは、どういう意味だろう。  飲み込む前に、悠真は泣き出した。子どものようにしゃくりあげ、ぼろぼろと涙を流す。
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