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 翌日。葬儀の朝は式場の掃除から始まる。消臭スプレーを駆使し、ニンニク臭を消して歩く。  --鼻が曲がりそうよ。  聖子が顔をしかめる。悠真は思わず微笑んだ。  完璧に匂いを除去することは難しかったが、到着した住職は何も言わずに式の準備に取りかかる。こちらも怪しくなびく毛髪を見逃しているのだから、お互い様だろう。  葬儀式は、ゆっくりと始まった。  式時間は一時間三十分。通常は一時間だが、会社の従業員が百名単位で参列するため、わざと時間を長く取っている。少しでも長く、聖子を偲ぶ時間を作ろうと、部長が配慮したのだ。  通夜のばか騒ぎはどこへやら。荘厳な静寂が辺りを満たしていた。司会の女性が悠真に目配せをする。式の進行具合を注視し、彼は大きく息を吸った。心を決める。  読経が止んだ。司会者の声がやけに涼やかに響き渡る。  弔辞。悠真は式場に設置されたマイクスタンドの前に立つ。懐から用紙を取りだし、肺に空気を送り込むと、世界に言葉を吐き出した。
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