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 聖子の堂々たる態度は上司の前でも発揮される。 「クレーム処理には行きません。だって私は悪くないですから」  本社にて。呼び出された彼女は、部長を睨みつけながら言い放つ。様子を伺っていた周りの社員はその対応に凍りついた。  相手はあの、天国(あまくに)良夫部長だ。温和そうな名前とは裏腹に、閻魔大王の異名を持つ。相手を怯ませる視線、鍛え抜かれた肉体。彼に怒鳴られた社員が、恐怖のあまり漏らしてしまった話はあまりにも有名で。呼び出されたら最後、精神が病むと恐れられている。  天国が聖子を呼び出すのは珍しい。アルバイトのミスは、社員が責任を持って処理するのが一般的。今回は特例だった。  ある住職が怒り心頭なのだ。直々に謝りに来いと彼女を指名し、目を血走らせて興奮している。  天国は考えた。聖子独りで行かせるわけにはいかない。ここは一つ、上司である部長の付き添いの元、謝罪に向かうのはどうだろうか。
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