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「しかも、せいもうじ、ですよ。成毛寺。地名がそのまま寺院名になったんでしょうけど、もう、狙ってますよね。カツラの成毛寺」 「お前、それ以上言うな。失礼になる」 「部長だって笑ってるじゃないですか。とにかく、私は謝罪に行きません。またあのカツラを見たら吹き出してしまいます。我慢できません」  あの天国部長が笑っている。  居合わせた社員は驚いた。無愛想すぎて女の気配なし。興味があるのは出世だけ。そんな独身貴族の彼が、仕事中に笑うなんて。  聖子の周辺はいつも穏やかな風が吹いている。その空気に触れると、皆揃って顔をほころばせた。  彼女は人の心を解きほぐすのが上手なのだ。  聖子は上司に認められると早かった。あっという間に契約社員に。その後、正社員に昇格するとパートやアルバイトを束ねるリーダーとして、皆に慕われた。  いつからだろう。悠真は聖子に惹かれていた。思ったことは何でも言う、さっぱりとした女性。女性特有の「気持ちを察して欲しい」アピールがなく、一緒にいてとにかく楽。日だまりに包まれているような暖かさがあった。
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