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今回僕は外の空気に触れるとものの数分で息を引き取ることになった。どうせすぐ死んじゃうんなら、生まれなきゃいいのに。
──めんどくさいな。
なんだか一回分の“生”を無駄にしたような気分だ。それでもそのわずか数分、僕が誕生して息を引き取るまでのほんの短い間、母猫は僕の体中を舐め続けていてくれた。
──くすぐったくて、あったかいや。
僕がすぐに死んでしまうことを母が知ってるのかはわからない。母猫は僕が死んでしまう哀しさよりも産まれてきてくれた喜びの方が遥かに大きいのだということを体中で伝えようとしているように思えた。それは僕が僕を形成する中枢部へとダイレクトに到達する。
やがて目の前が真っ白になっていき、もといた場所に戻っていく瞬間は前回とまるきり同じだった。それはまるでこの世界を司る指揮者からの合図のようだった。
そんな一秒を微塵切りにしてもまだ足りぬほどの小さな小さな時間の中、僕は『何のため生まれて死ぬんだろ?』と少しだけ思ったのを覚えている。
三度目はこれまでと少し違っていた。
僕は“鉄棒をする猫”として有名になったヒマラヤンだった。
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