はじめて僕が死んだ夜

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 決行当日。安定した暮らしを失う怖さが鉛のようにのしかかってくる。失うことと自らの意志で切り捨てることはまるで違うのだと自分に言い聞かせ、走り出すしかなかった。  やがて──綺麗だった僕の毛並みは雨や泥にまみれ、爪の先はロープの切り口みたいに毛羽立ち、この町に着く頃にはすっかり薄汚い、一匹の野良猫が完成していた。  僕は考える猫である。だけどこれでよかったのかどうか考えることはない。だって、まだまだ何回も生まれ変わっていかなければならないのだから。感傷に浸るには早すぎる。不感症に至るにはまだ早い。  そんなことを考えながら耳の裏を掻いていた時のことだ。『油断した!』と思った時はすでに遅し、いつの間にか僕の尻尾は誰かの手によってむんずと掴まれていた。必死に抵抗し、なんとか飛び退いた僕の目に映ったのはキャッキャと無邪気に笑う幼い子供の姿だった。  すぐに父親らしき人間が「コラコラ、ダメだろ引っ掻かれるぞ」と駆け寄ってくる。まったくだ。危うく引っ掻くとこだった。女子供に爪を上げるのは僕の美意識に反する。  だというのにまったくこの子供ときたら、今度は僕の首根っこを無造作に掴み「飼って飼って、このネコさん飼って!」と駄々をこね始めやがった。 ──とんでもない!  僕はジタバタと暴れた。 「ダメダメ、うちは団地だからな。ホラ、猫さんも嫌がってるだろ」     
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