5.銀色の髪の女騎士はお好きですか?

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 エッバベルクの領主クララ・アンスバッハ騎士爵は沈痛な面持ちで家令の老エゴンの報告を聞いていた。 「どこの家も従者に出せる者はいないそうです。やはり長引く戦乱で若者の数が激減しているのが原因でございます」 「そうか……」 短くつぶやいたクララの顔がさらに曇る。 それでもなおクララの美しさは少しも損なわれていない。 少々きつめの眼付きをしているが生来は優しい気性の女で、絹のような滑らかな白い肌と、美しい銀色の髪をしている。 彼女には時間がなかった。 クララは今年、戦死した父の跡を継いで騎士爵となった。 幸い家督相続は滞りなく行えたが、騎士爵には4年に一度王都で軍務に参加しなくてはならないという決まりがあった。 軍務はクララにとって(いと)うようなものではない。 騎士の一人娘として武芸の手ほどきは亡き父から厳しく受けている。 また、この世界では女が戦や狩りに参加するのは決しておかしなことではなかった。 問題は随行するべき従者がいないことだった。 騎士爵は部下として最低でも3名の従者を随行させるのが常識だ。 しかし、エッバベルクでは長い戦争の間に多くの人間を兵士として送り出し、そのほとんどは帰らぬ人となっている。 先代領主である亡父が大勢の若者を兵士として戦場に連れて行った結果だ。     
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