1.不思議なことは唐突に起こる

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まるで夢を見ているようだ。 とにかく落ち着くんだ俺!  一歩も動かずに慎重にザックをおろして足の間に挟む。 天蓋(てんがい)に入れたヘッドランプを取り出してスイッチを入れた。 LEDの白い光に照らされて辺りの様子が露わになる。 先程の部屋とは全く違う場所だった。 一体どうなってるんだよ?  ここは……どこかの遺跡?  慌ててスマートフォンを取り出す。 電波は圏外だ。 GPSも現在位置をロストしてしまっていた。 「マジかよ」 独り言でも呟かずにはいられない。 冬山に登るのだからある程度の不測の事態は想定していたし、そのための準備もしてきた。 だがこんな事態は完全に想定外だ。  ザックを背負い直し、ヘッドランプを頭につけ、手にはピッケルを握りしめて、ゆっくりと通路を移動する。 何が起こったのか分からないがこの場所に(とど)まっても救援は望めそうになかった。 せめて外に出て、電波の届く範囲に移動しなければ。 「△%$#!!!」 闇を切り裂いて女の人の叫び声が石壁に響き渡った。 俺以外の人がいるのか。 マイナーなルートを登っていたから期待していなかったが、仲間がいるのは心強い。 でも何を言っているかはわからなかったが、雰囲気から察するにトラブルのようだ。     
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