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対モンスター用の強弓も先程身体強化の魔法を自分にかけたばかりなので軽々と引くことができた。
「ギャッ!」
矢が貫通した鹿はそのまま十数歩走った。
千鳥足のようになりながらも生への渇望のまま走り続けている。
だがハスラーは鹿の逃走を許さなかった。
「ワン! ワン!」
ブリッツを連れてハスラーの声がする方向へ行くと、雪の上に鮮血をまき散らしながら鹿が倒れていた。
クララは用心深く近寄った。
手負いの野生生物は例え鹿のような草食動物であっても危険なのだ。
だがもはや鹿には体を動かす力は残されていなかった。
「いま楽にしてやる」
クララは腰から短剣を抜き、鹿の喉を掻っ切った。
これはクララの優しさでもあり、心臓が動いているうちに血抜きをしようという実際的な理由からでもあった。
血抜きが終わると獲物をブリッツのソリに括り付けた。
解体はコウタにやってもらうことにしよう。
きっとコウタは焚火を焚いて待ってくれているだろう。
まだ身体強化の魔法は切れていなかったが、クララは早く荷物を置いた場所に戻って暖を取りたかった。
「おかえりなさーい」
赤々と燃える火のそばで大型の愛玩犬のような顔をしたコウタがクララを迎えてくれた。
最近のクララはコウタの顔を見るとホッとしてしまう。
「大きな鹿ですねぇ!」
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