9.クララの危機

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クララの獲ってきた牡鹿を見てコウタはしきりに感心している。 鹿を見るのは初めてなのか?  「すげー、実物はこんなに大きいんだ」などと言っている。 鹿が珍しい場所に住んでいるのだろうか? 「寒かったでしょう。早く火にあたってくださいね」 「ありがとう」 公太に促されてガントレットを火に近づける。 あんまり近づけすぎると火傷をしてしまうので気を付けなければならない。 「お飲み物をすぐにお持ちします。兜は脱いでしまいませんか?」 「うん」 クララは素直にコウタに身を任せた。 コウタの鎧の扱いは長足の進歩を遂げている。 「はいどうぞ」 ヘルムをとったクララの前に爽やかな香りの飲み物が差し出された。 「いい匂い」 甘く、かぐわしい。 レモン?  いや少し違う。 「ユズと蜂蜜とショウガのお湯割りですよ」 「ユズ?」 「ええ。私の国の柑橘類の一種です」 不思議な香りだ。 これが異世界の香りなのだろうか。 息を吹きかけて少し冷まし、一口すすって驚いた。 「美味しい……」 「それはよかった」 爽やかな香り、蜂蜜の甘味、ショウガの風味が見事にマッチしている。 ショウガのおかげか体も少しホカホカしてきた。 「だが蜂蜜なんて高級なものをどこで手に入れたんだ? 屋敷には今なかったはずだが」     
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