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「……まったく、これだから人間は」
――これが、お客様が帰った後で発したキュウの言葉でございます。
「理想を求めるのに対して代償が必要なのを、愚かな人間は知らない」
その声はとても冷たく、心なんかはこれっぽっちもないものでした。彼もまごう事なき人間なのに、大変おかしな話です。
「笑うなピクシー」
「これは失敬」
私は笑うのをやめて、キュウの事を気付かれないよう、そっと見ます。
薬を一人で沢山運び、並べているところでした。
「キュウ、私もお手伝い致しますよ?」
「そうか、それは助かる」
キュウは少し嬉しそうに、私に指示を出してくれました。
「……なんでも願いを叶えてくれる薬、か」
ふとキュウは、ネックレスの薬を撫でながらそんな事を呟きます。
「どうされました?」
「……いや、何でもない。それよりまだ今日は始まったばかりだ。さっさと薬並べるぞ」
「はいはい、仰せのままに」
キュウの悲しげな顔を、私は見なかった事にして仕事に戻りました。
今日はあとどれくらいのお客様がくるか、とても楽しみでございます。
本日も奇し屋、営業中でございます。
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