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お客様を座らせると、キュウは持ち前の営業スマイルで話しかけます。私から見るとその笑顔も怖いですよ、キュウ。
「……」
一方お客様といえばただ黙って、椅子に腰を掛けてたまま。
「お風邪ですか? それとも、どこかお怪我を?」
「……」
キュウが言葉を投げかけても、お客様は一向に口を開きません。
それを見てでしょうか。
キュウはくすりと笑い、代わりと言わんばかりに口を開きます。
「……『裏薬』を、お求めでしょうか?」
「……!」
お客様はその言葉を聞くと、身体をびくりと揺らしました。どうやら図星のようで。
「……噂に、聞いてきました」
ぽつりと、お客様は呟きます。
「……こちらのお薬は、『なんでも願いを叶えてくれる』って」
細くて、弱くて、今にも消えてしまいそうな声ですが。その言葉の中からは、なぜか恐ろしさも感じてしまいます。あぁ、人間の心理が見えます。
「……完璧な女になりたいのです。容姿も、性格も、生活も全て。こんな私とは、離れたい」
「そうですか……」
キュウもまた、ぽつりと呟きます。
ですが、その目に光はありません。
とても悲観的な目で、お客様を見てました。
「……残念ながら、『なんでも願いを叶えてくれる』というのは、お取り扱いしておりません。ここは所詮薬屋ですので」
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