1.土曜日は深くて青いソーダ水の中

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うちに変な男が住み着きました。 狭くてろくに物も無い質素な部屋に、ひょろりと背の高い男がひとり。そこで普通に生活する俺。なんて気味の悪い絵面なんだろう。 オモチャみたいなグリーンの四ツ穴ボタンがついた、パステルイエローの大きなカーディガンに、くすんだ金髪、おまけに色白という全体的に淡い色合いの男が上がりこんで来たのは、昨日のことだった。部屋の掃除をしながら普通に土曜日という休日を過ごしていた俺の元へ、何も言わず押し入ってきたのだ。 どういうリアクションを取っていいか分からず、ただ呆然とするばかりの俺に、男は言い放った。 「気兼ねはいりませんよ。僕はただのインテリアですから」 気兼ねはいらないって言ったってここは俺の部屋なんだけど、というツッコミは敢えなく無視される。腹が立ったので容赦なくぶっ叩いてやれば、さすがに少し涙目になっていた。 「誰だ、お前。ていうか不法侵入だろ!警察呼ぶぞ」 俺はできるだけ冷静を装って言った。 「呼んでもいいですよ」 通報されたところで痛くも痒くもないと言わんばかりに、男はさらりと前髪を払った。そいつは男でも惚れ惚れしてしまうくらいのイケメンなのだが、一連の流れに不気味さが一層増す。 「いや、あの、何なのお前!」 「だから、インテリアですって」 「そのインテリアの意味が分からないんだっつーの!ふざけんな!」 頭をがしがしと掻き乱しながら、俺はため息をついた。その男は部屋の隅で背筋を伸ばして正座したまま動こうとしない。
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