第一章 桜散る、春

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「前から言っていたとおり、晩御飯は今日から私が作るから」 ざあっと風が吹いて、側の大きな樹が揺れる。その後に、ヒラヒラと桜が落ちてくる。 パパは写真を見下ろしたまま、何も言わなかった。 これまでずっと、パパは仕事から帰ってくるとすぐにご飯を作ってくれた。疲れてるはずなのに、宿題を教えてくれた。私が寝たあとに洗濯をかけて、干して、それからは部屋にこもり、残してきた仕事にとりかかる。 疲れた体を休ませる暇もなく、仕事も、家事も、ずっと一人で私を育ててくれた。 パパと約束をした。 中学生になったら、家事は私がすると──。 小学校の卒業式を迎えるまで認めてくれなかったけど、パパがまだ納得していないって事も、わかっていたけど。 「私はもう中学生なんだから、心配ないよ」 まだ子供だって言うけど、私にとっては大きな一歩。守られてばかりじゃいられない。 これからの時間は、私がパパを支えていく番だから。
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