第一章 桜散る、春

11/60
前へ
/608ページ
次へ
「だっこー!」 砂場で、両手をかざして抱っこをせがむ女の子を抱き抱えたお母さんが、優しく背中を擦っていた。 ぽんぽんと撫でられると、女の子は眠たそうに目を閉じる。 幸せそうだった。 眩しいくらい、幸せな家族が目の前にあった。 パパも、静かに家族を見つめて ベンチの背もたれに背をつけながら、静かに口を開く。 「……すまないな、真規」 あまりにも切ない声に、胸がぎゅっと締め付けられた。 「まだ中学生のお前にさせるなんて……。パパは、ダメな父親だよなぁ」 そんなことない。 そんなことないよ、パパ。 ここまで私を育ててきてくれたパパが、何言ってるの……。 胸がいっぱいになって声にも出せず、私はただ、何度も首を横に振った。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加