第一章 桜散る、春

14/60
前へ
/608ページ
次へ
「ピピー、ピピー、ピピー」 異常発生! 至急治療せよ! そんな警告のように、狭い脱衣所で鳴り続く機械音をどうにか止めようと思考を考え巡らせる。どのボタンを押しこんでも、機嫌を直してはくれない。 「さっきまで普通に動いてたのに、何がおかしいの……?」 1時間前に稼働させた我が家の洗濯機は、いつまでたっても治せない私に痺れを切らし、ついに動かなくなってしまった。 「こら! 言うことを聞きなさ―い!」 ガツン──と古い洗濯機をぶっ叩こうとした時、今度は台所から「チンッ」となんとも呑気な音が耳に届いた。 それと同時に、焦げ臭さが鼻につく。 ……あ! 「あちゃーー……」 慌てて台所に戻り火を止めたけど、アルミ製のフライパンは、買ってきたばかりの二匹のシャケを道連れに、無様にも真っ黒に変貌してしまった。 ……よし、次! 焦る心を落ち着かせながら、炊飯ジャーのフタを開ければ水っぽいごはん。沸騰する味噌汁を見て、やっと豆腐を買い忘れたことに気がついた。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加