第一章 桜散る、春

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及川真規(おいかわまき)です。私に母親はいないけど、パパと二人、幸せに暮らしてます。みんなと仲良くなりたいです」 さっきまで騒がしかった教室が、シンと静まり返った。 みんなが私を見てる。顔を寄せあい、ヒソヒソと話す声も聞こえた。 突き刺さる視線を全身に感じながら、椅子に座る。やっと息を吸った時、突き破りそうな心臓の鼓動に気がついた。 ……これでいいんだ。 絶対に言うって、決めたんだから。 顔をあげて、口の端をクッと吊り上げて、何か問題でも? というような澄まし顔で教室を見渡した。 一瞬、目があった。でも、すぐにそらされる。教卓に座る相澤先生の気まずそうな目が、ぎこちなく空中を泳いでいた。 「よろしくね、真規ちゃん」 全員の自己紹介が終わった後、さっきの女の子が私に振り返る。 優しく笑う彼女は、由美(ゆみ)ちゃん。 きっと仲良くなれる。 多分、ううん、絶対。 「さっきはありがとう」 顔いっぱいに笑顔を広げて、そう返した。
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