第一章 桜散る、春

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中学生になると、こんなにも教科書が増えるのか……とさすがに驚いた。 机の上に山積にされた教科書に、気忙しく名前を書かされた後、私たちは解放された。 ちょうど同じタイミングで、体育館で引き続き行われていた保護者への説明会も終わった頃だと、相澤先生が最後に付け加えて。 それでもみんなは帰ろうとはせず、元々顔見知りなのか初対面なのかもわからないほど、他の生徒と楽しげに談笑していた。 そんなクラスメイトからすり抜けるように、私は由美ちゃんに「また明日ね」と声を投げて、パパが待つ外に向かった。 凛と佇む満開の桜の樹が並ぶ、正門。 【桜田市立中学校 入学式】と書かれた看板の隣に私を立たせて、パパはシャッターを押し続ける。 「もういいんじゃない?」 「ん~もうちょっと」 他の生徒や保護者が、私達を横目にしながら次々に正門を出ていく。ピシピシと視線を感じ、私は少しだけ目線を下げた。 「もう、そんなに撮らなくたっていいじゃん。いい加減恥ずかしいよ……」 その場を離れようとする私を、ダメダメ、とパパが手を振って制止する。 「ママに怒られちゃうからな」 今日を待っていた。長い時間が悲しみを押し上げて、私はやっと、中学生になった。
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