氷解(その二)

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「気絶していたってのは解るとしてなんで当たったら声をあげないのよ?」 その疑問はもっともだと思われたので私も聞きたい。 それには美里先生が答えてくれた。 「確かに頭に何かしら当たって脳震盪(のうしんとう)を起こした時、よくドラマとかで叫び声をあげてから気絶するシーンがあるけど、気絶するほど頭を打ったばあい叫ぶとかの余裕はないのよね、つまりドラマならではってこと。」 美里先生のミニ教室が終わった。 「でも、その後すぐにLINEしてるじゃない?どう説明するの?」 「脳震盪(のうしんとう)は平均的に15分ほどで意識を取り戻すと思うのでそれも可能だとおもうわ。」 「そんな…。」 「まぁ、あくまで可能性の話だけどもね。私はびっくりし過ぎて声が出ない事もあると思うし、もともと胆の座ってる人も居ると思うからそちらのお嬢さんの言うことに完全に賛成というわけでもないけど。」 そう言って美里先生は主人をチラリと見た。 「確かにそうですね。あくまで可能性が高かったという推論です。」 主人はあっさりと認めた。 「では黒瀬みゆきさんはその後どうしました?」 池照刑事が後を引き受ける様に訊いた。 「どうって、なにもしてないわよ?」 「なにもしてないと言うと?」 「なにもしてないものはしてないとしか言いようがないじゃない。」 黒瀬みゆきは何をいってるの?と言いたげに池照を見据えた。 「それはおかしいわ。」 主人の言葉に黒瀬みゆきはギョッとした目で見返した。 しかし、「どこが?」という代わりに「なんなのあなた。」と言った。
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