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「凍死ですね」
「……うぅ」
白衣の女医がそう言うと聞いていた関係者の中のひとりが泣き崩れる様に膝をついた。
まわりの数人はそれを慰める様に声をかけている。
「大丈夫ですか?奥さん」
そう声をかけたのはスラリとした体型にモデルの様な顔をもった男だった。
ここが警察署の中の一室である事を念頭に置いても、周りの何人かの方が刑事っぽく見えるのは人間の先入観というものであろう。
こんなカッコイイ刑事が居るはずがない……という先入観だ。
その刑事はこちらに気がついて手を振っている。
もちろん私ではなく、私の主人に手を振ってるのだろう。
それでも私は軽く会釈した。
「早かったですね」
モデルの様な刑事はこちらに歩きながらそう声を掛けてきた。
「いえ、ちょうど近くの紅茶店に来てましたので」
主人はとても紅茶好きなので自ら紅茶を選ぶ為に態々喧騒止まぬ都会に足を運ぶ事も厭わないのだ。
お陰で私もボディーガード兼荷物持ちとしてここに居るわけだ。
「あの……皆さんを放って置いて大丈夫ですか?それに気分の悪くなった方もいるみたいですが」
主人が真っ当な心配をしてそう窘めた。
「え?あぁ、先輩もいるし法医学の先生も居るし大丈夫ですよ」
そう言って不謹慎に笑った笑顔は確かにどっかのモデル雑誌の表紙の様だと私は思った。
「ではお嬢様こちらへ」
それを聴いて私の主人は少し眉をひそめた。
「……あの、お嬢様はやめてと前に言ったと思いますけど?」
「あ、そうでした。うっかり」
その刑事は頭を少し掻くような仕草をすると言い直した。
「如鏡さん、こちらへ……」
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