SCENE8:準備【智孝】

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 魄を浄化するということは、魄との接触も増えるということだ。相手の欲が強ければ強いほど、周りへの影響も大きく、呑み込まれやすい。字守候補生の内が一番危険だった。  墨木明日香も例外ではなく、彼女が殺された原因もこれだった。当時、既に朧を手に入れていたとはいえ、浄化する際の反動は未だに晟を苦しめている。それは力の暴発と記憶の喪失となり、理性の忘却という影響で表れていた。  犯人の姿を見た者も多かったはずだが、『親の七光り』として晟を羨んでいた者にとってはこれをチャンスとしない手はない。(たが)が外れやすい晟は、日々沸き起こる嫉妬に対し、暴力という形で抑えつけていた。  その環境を変えるべく、晟は先月ここ天本(あまもと)へ編入してきたのだ。 「そして、有羽が晟の名を口にしてから変形が始まったことと、魄を浄化した後に起こった有羽の体への変化は何かしらの関係性があるとふんでいる。ついでに言うと、三年前の鬼狩りも偶然ではなく、起こるべくして起きたことだ」 「つまり、牙白(ガラ)──遼の正体を知っている人が三年前から布石をうっていて、やっと動き出したってこと?」 「ああ」 「この前の事件も、遼が関係してる……」 「恐らくな」 「それが流天……」  有羽の言葉に対し頷くと、ぞくっと悪寒がした有羽は、自分自身を抱きしめるようにして腕をさすった。 「私が朧を使えるようになったのも、何か関係がある?」
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