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「……墨木明日香」
「では、その墨木明日香と関係性が深く、さらに晟に対して嫉妬や恨みをもつ人間は?」
晟はそれについて思い当たる節があるものの、答えることが出来なかった。晟の思い浮かべる人物と自分のそれとが一致していると予想した智孝は、静かに背中を押す。
「既に死んでいたとしても、だぞ」
その言葉に息をのむが、降参したように一つ息を吐いて名前を口にした。
「墨木隆一。明日香の兄だよ」
「……晟、大丈夫?」
言葉では表すことのできない寂しさや憎しみを交えた瞳を向ける晟に、有羽は心配そうに声をかけた。晟は少し驚いた顔をするが、すぐに笑みを浮かばせて答える。
「大丈夫だよ。その兄貴、明日香のこと溺愛するあまりさ、異常なことしてたんだよね。ほぼ毎日殴ったり蹴ったり……最後は銃で殺して、すぐに自分も死んだ」
「そんな……」
「その後のことは覚えてないんだけど、これがどう関係してる?」
最後の言葉は自分に向けて投げられた。晟の言葉通り、墨木隆一は妹を撃ち殺した後、浄化と怒りで朧を放つ晟よりも早く自らの心臓を貫いた。その直後だった。三年前に有羽に起きたものと同じ力の暴発が晟にも起きたのだ。
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