桜の目覚め

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「この桜はとても美しい。花が満開のときはもちろん、散る姿も」  リサはただ男の話す言葉に耳を傾ける。  なにもこんな山奥まできて、桜を見なくても見られるだろうに……とも思う。  きっとこの男にも、この桜に何らかの思い入れがあるのだろう。  ――それでも私には、関係のないこと。 「君はここで何をしているの?」  不意に質問されてリサは動揺した。一人語りの彼がリサに何かを聞いてくるとは思っていなかったから。 「……私は、人を待っている」 「まだ来ないの? それとも毎年の約束?」  男は穏やかに言葉を紡ぐ。  リサは答えた。 「まだ来ない。会えていないんだ」 「リサは悲しい? それとも寂しい? どうして待ち続けるの?」  重なる質問にリサは言葉に詰まる。  偶然ここで会っただけの男に、そのまで答えることはない……そう思った。
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